詩人の長田弘さんの訃報が流れてきた。
今月の繰り返し読む本リストに入れて読み返している最中だったので、思いがけないニュースにしんみりしてる。
氏の書くものは、小難しい言葉を極力使わずに、明文化するのが難しい事象をすっきり解きほぐしてくれる。読むだけで、溜め込んだモヤモヤもスッキリ晴れる。
文筆家の人が書くものは、たいてい道案内や鳥瞰図・俯瞰図を兼ねているけど、柔らかく端正な言葉の選び方が好きだった。
モヤモヤを溜め込んでほったらかしにしてると、モヤモヤに覆い隠されて、感受性みたいなヤワイものが真っ先に枯れそうになる。モヤモヤを晴らす行為は、伸びすぎた木の枝を払い、その下にあるヤワイものに光を当てる作業みたいなもの。日に照らされることで、ヤワイものも鍛えられる。
何かを読む行為は、知識や何かを溜め込む方向になりがち。
でも長田氏の本、特に詩に関してのものを読んでいると、余分な枝葉がピシパシと小気味よくカットされていくようで、デトックスにもなった。
『本を愛しなさい』は、”わが愛する本とその書き手たちの肖像画を書きたい”として、著者である長田氏が十人の詩人を選んだ本。複数の出典や資料を再構成して、ひとりの詩人の人となりが浮かび上がるよう、小伝にまとめあげている。
幼少時のできごと、日々の生活習慣、折々にどんな本を読んできたのか。複数のエピソードを散りばめて、詩人が発する言葉の源には、そんな経緯があったのか 思わせる趣向になっている。言葉の向こうに、言葉を発する人の個性が浮かび上がるようになっている。ある人のTweetの中から、よりすぐりのエピソードを 抜き出してまとめにしたようなものかも。そう言ってしまうと、ほのかに台無しでもあるけど。
『本を愛しなさい』は、今はもう無くなってしまったサイトで、顔を見たここともない、文字を通じてしか知らない人がおススメしていた本。文字を通じてしか知らない人だけど、薦める本、薦める時の言葉の選び方から、勝手に信頼を寄せていた。
自分の中のいくつかのパートは、顔を見たこともないけど、勝手に信頼を寄せていた人たちによって作られてる。
「人を感じさせてくれる本を大事にしなさい」
顔を見たこともない人の言葉なのに、今もこれからも、きっと覚えてる。