クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

『みんなのアムステルダム国立美術館へ』見てきた

美術館の改修工事の舞台裏、しかも閉館期間10年におよぶ大改修工事に迫ったドキュメンタリー映画。レンブラントの『夜警』、フェルメールの『手紙を読む青衣の女』、そして金剛力士像と、出演するのはワールドクラスの名画や美術品。

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 キャッチコピーは、美術館は誰のもの?『みんなの~』というタイトルがとっても皮肉に響く内容で、面白かった。
 
 
『ビッグ・アイズ』を見に行った時に予告編を見て、興味を持った映画。アムステルダム国立美術館は、なんと建物を貫通するように自転車道が走っていて、市民サイクリストが通勤や生活道路として便利に使っていた。
ルーブル美術館大英博物館に匹敵する収蔵品を持つアムステルダム博物館。年中観光客が絶えず、観光客プラス市民サイクリストで、エントランス付近は終始ごった返していた。そんな場所を、大改修ですっきりさせようとしたところ、サイクリストの猛反対にあってしまう。
 
 
美術館の大改修という一大プロジェクトが、二転三転あるいは暗転する。時には頓挫、工事中止にまで追い込まれ、紛糾する様子まで「ありのーままにー♪」描いているところがよかった。
 
 
当 初4年だった閉館期間が、伸びに伸びてついには10年。国家的プロジェクトゆえに、かかった予算もきっと莫大。無事再オープンにこぎつけた後、「どうして そんなに時間がかかったのですか?」と予算と時間の無駄使いを議会で追求された時には、この映画のDVDを見せれば無問題。もしもの時に備えて「記録」し といたんじゃないの?そう勘繰りたくなるほど、迷走するプロジェクトをそのまま追体験できる。
 
 
一 番の難敵はサイクリスト市民団体で、「自転車が通りにくくなる」という彼らの主張の前に、エントランス改修案は何度も修正される。冬になると、美術館前にはスケートリンクも出現し、市民の生活の一部でもあった景色が変わるのは、確かに愉快ではないだろう。不愉快ではあっても、200年続いたものが、300 年、400年先も続くために進められるプロジェクト。それを、自分達が見る一代限りの景色がすべてであるかのように、反対するのはどうなのとも思った。
 
 
ア ムステルダム国立美術館の収蔵品には、オランダが通商で栄えた17世紀のもの、宮廷も貴族も持たない国で、市民が社会の中心だった時代のものも多数ある。 レンブラントの『夜警』で自警団として描かれた市民は、現代の市民とはちと趣が異なる。レンブラントの時代の市民といえば、競って画家に絵を描かせるよう な、富裕な人たちだった。市民像も、時代を経てアップデートする。
 
 
市民と美術館の在り方をめぐって対立が続くその間も、修復の舞台裏で続く地味な作業。映画はちゃんと、地味な作業にも焦点をあてる。
 
 
絵画修復士のひと筆で、くすんだ絵画が輝きを取り戻す様子は魔法のよう。現代の絵画修復士になるには、絵画の博士号よりも化学の博士号の方が、より必要なのかも。
 
 
アジア美術担当者が、遠く日本からやってきた金剛仁王像を見る目は、新しいおもちゃを手に入れた子どものようにキラッキラ。美術館のヒビひとつ見逃さず、美術館を住みかとするストイックな気配漂わせる美術館管理人。
 
 
館長はもとより、学芸員、建築家、政治家、そして市民と、美術館に関係するすべての人を登場させ、ぐちゃぐちゃに迷走する美術館であっても、変わらない愛情の対象であることが浮かびあがる。
 
 
美術館は、私のものと思うみんなのもの。
 
 
金剛仁王像の意外な出自も含めて、日本ではオープンにされることのない舞台裏に、好奇心が刺激された。
 


あとがき16 奥出雲から流出した仏像たち:映画『みんなのアムステルダム国立美術館へ』(2014年、オランダ) - あとがき愛読党ブログ