クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

今に通じるロールモデル

今年、2014年の本屋大賞が『村上海賊の娘』、その前は『海賊とよばれた男』だった。ここのところ、スケールが大きい壮大な物語が支持されてるみたい。それとも海賊ばやり?

 

講談社ノンフィクション賞を受賞した『謎の独立国家ソマリランド』も、そういえば海賊で有名なソマリアが題材だったね。
 

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(本日のおやつ。写真は本文とは関係ありません。)

 

ロールモデルを見失ってる時、あるべき姿がわからない時。そんな時には大きな物語が好まれるのかも。勝手にそんな仮説立てた。
 
この後は『風の王国』を読んだ感想書いてます。長ーいので(2707文字ある)、興味のある人だけどうぞ。

 

風の王国』も、大変スケールが大きく壮大な物語。
元々は少女向けラノベレーベル、コバルト文庫で人気だったシリーズだそう。ラノベを卒業したシニアでも手に取りやすいよう、集英社文庫からも刊行始まった。イラストは全然なし。
 
 
そういう意味で、講談社X文庫ホワイトハートから講談社文庫に、そして今は新潮文庫から刊行されてる『十二国記』と似てる。
 
 
十二国記』が異世界ファンタジーなら、『風の王国』は大河歴史ロマン。7世紀、日本では聖徳太子没後の、唐時代の中国、中国と緊張関係にあった西域の異民族・吐蕃(とばん)が舞台。
 
 
日本でも世界でも、その分野の専門家なんてほんのわずかしかいなさそうな、超がつくマイナーな時代のお話しになってる。
 
 
二十代まで続く唐王朝も、建国からまだそう遠くない、第二代皇帝・李世民の治世下で、王朝に連なる一人の少女が、西域の異民族の王に嫁ぐよう命じられるところからお話しは始まる。
 
 
普通の結婚じゃないんだよね。身分の高い人が低い人へと嫁ぐ、「降嫁」という言葉が使われるように、唐から見て「格下」の吐蕃(とばん)に嫁ぐから。
 
 
建国からまだ日も浅く、国内政治も盤石とはいいがたい。近隣諸国とのもめ事も絶えない。そんな国際情勢下での政略結婚なんだよね。王族同士の結婚とはいえ、 ダイアナ妃がチャールズ皇太子と結婚する、あるいはケイトさんがウィリアム王子と結婚したロイヤル・ウエディングとは全く違う、唐代中国のロイヤル・ウエ ディング。
 
 
もとはラノベなので、すごく読みやすい。あれっと引っ掛かる史実があってもすっとばして、キャラクターにフォーカスして読んでいけば大丈夫。
 
超マイナーな時代が舞台の第一巻だけに、情報量は多い。説明多目だけど、リーダビリティが優先されてるのでスラスラ読めた。
 
もとはコバルトだけあって甘々成分もしっかり。少女向けラノベの常道をちゃんと守ってる。恋バナという常道守りつつも、それだけには終わってない。そこがこの お話しのいいところ。恋愛終わっても人生続くでしょ。でも、こっぱずかしさを感じるような、甘々成分も入ってて良かったと思う。
 
 
これ、「文成公主」の話だって、すぐにわかるから。文成公主の生涯をすでに知ってる人間なので、彼女の人生は苦難にだけ満ちてたわけでなく、ちゃんと人間らしい喜びにも彩られていた。フィクションであっても、そう上書きすることができたからよかった。
 
 
大昔の、超マイナーな吐蕃という地域に生きた人の話が現代にまで伝わってる。そんな人の人生は、他の人が真似しようとしても真似できない、非凡な人生に決まってる。
 
 
人権意識・社会の慣習やルール、全てが現代とはまったく違うのに、現代の人でも感心するような生き方には、今に生きる人でもあらすごいと思える何かがあるに決まってるんだよ。
 
 
王族に生まれたとは言え、主人公の李翠蘭も”コマ”にしか過ぎないんだよね。最高権力者である皇帝のひと言で、都から辺境へと嫁がされる持ちゴマのひとつだった。
 
 
唐という集団を生かすのに、翠蘭の意見なんてどうでもいいから。
 
 
コ マにしか過ぎなかった人なんだけど、後から見たらすごいことしてるの。それが、「個として生きる」概念も方法もなかった時代に、「個」を貫いたからなのか。コマはコマとして、与えられた機会を最大限に生かし、最良を得ようとしたからなのか。お話しはまだ序盤だから、どっちともつかない。
 
 
コマとしての役目を貫くにも、個として生きるにも、どっちにしても楽ではなかったことだけは間違いないんだけど。
 
 
唐・吐蕃、唐とも吐蕃とも微妙な関係にある第三国。序盤だけでも三か国が登場して、それぞれの国に関係する登場人物が出てきて、各人にはそれぞれの思惑がある。
 
 
コマとしての自分と個しての自分と。翠蘭自身が葛藤を抱えてるのに、右向けば左を向けと言われ、左を向けば右を向けと言われる。何をするにも自由にならないのに、前に進んでいかなくちゃならない。そんな状況で多分一番楽なのは、「自分を手放す」こと。
 
 
大人しく誰かのいいなりになるのが一番楽なはずなんだけど、翠蘭にはそれができない。背負ってるものがあるから。翠蘭とともにある人達、降嫁にあたり翠蘭に付き従ってきた人達のことが、翠蘭には見えているから。
 
 
これって現代社会とあんまり変わりないのよね。
 
 
親・兄弟や友人・知人を背負って、職場や地域や家庭と向き合う。そんな状況と全く変わらない。息苦しそうなのも同じに見えるんだよね。
 
 
共通の利益や目的のための小集団にどっぷりつかってたら、見えなかったものが見えた。見えたから、なすべきことをした。
 
 
もしも翠蘭=文成公主がそんな人だったら、彼女の人生が後世に残るものだったのもわかるような気がする。大変だったと思うけど。育った環境も違う、女心の機微も通じ無さそうな、異民族に嫁いだんだから。
 
 
異民族に嫁いだとはいえ、誰かに大切にされた記憶が、彼女を前に進ませたのかもしれない。
 
 

恋愛は終わっても人生は続く。それは確かなんだけど、恋愛が終わった人生に、彩りを与えてくれるのも恋愛なのかも。そう思わせる甘~い序盤で、できれば27巻全て刊行されるといいなと思う。

 

付記されてる参考文献を見ても、資料をきちんと読み込んで、物語の舞台を用意したことがわかるから。それだけ手間暇かけて用意された物語だもの。どんな生涯であっても、最後まで読みたい。コバルトでは完結してるんだけど、できればラノベを卒業した大人でも楽しめるような形で読みたいな。

 

お休みなさーい。

風の王国 (集英社文庫)

風の王国 (集英社文庫)

 

 

風の王国 (コバルト文庫)

風の王国 (コバルト文庫)