小樽といえば、レトロな歴史的建造物が多く残された場所。
運河近くのレトロな建物群からは「北のウォール街」の名残りを感じることができるけれど、小樽には海産物で財をなした、鰊御殿と呼ばれる建物群もある。たいていは高台など街中からはちょいと外れた場所にある鰊御殿。行ってきたのはだいたい去年2017年だけど、今さらながら振り返ってみる。
小樽銀鱗荘
小樽でも屈指の景勝地、平磯岬の見晴らしのいい高台に建つ銀鱗荘は、もともとは余市の大そう羽振りのいい網元のお屋敷だったとか。現在は、料亭で料理旅館になっている。料理旅館の隣にはグリル銀鱗荘があり、そちらもわりとお高い感じのフレンチレストラン。
庭、そして庭をのぞむ室内からは日本海が見える。きれいねー。
眺めのいい場所をひとりじめできるのは、いつの時代も変わらぬ贅沢。眺めがいいだけでなく室内の意匠も凝っていて、たかが鰊されど鰊で、海産物でこれだけのお屋敷が立ったのかと思うと、感慨深い。網元も、まぎれもなく一種の資本家なんだよなぁ。
落ち着いて食事ができる料理屋さんを探していて、銀鱗荘に行き着いた。
お寺以外でこんなに広い畳の大広間、まず見ることはない。さすが「御殿」。
静かだし、食事はたんぱく質多目だけど確実に美味しいし、誰かをおもてなししたい時にぴったり。4人での会食なのに、めちゃくちゃ広いお部屋に通された。また通された部屋の意匠が凝っていて、古い建物や意匠を見るのが好きな人にはたまらない。
どれも美味しかったお食事のなかでも、特に美味しかったのが、バター餡(あん)がかかったじゃがいも。バター飴味の餡がめちゃウマだった。北海道らしい一品でもあり、この一品のおかげでお料理全体に対する評価も5割増しになる。
以前は冬季は休業してたそうだけど、今では通年営業とか。行ったのは夏だけど、冬景色もきっと絵になる、インスタ映えしそうな場所。宿泊もできるので、古風な和風建築に泊まってみたい趣味の人にオススメ。
小樽貴賓館と小樽市鰊御殿
「小樽」「鰊御殿」で検索すると、まったく性格の違う二つの施設が出てくるので、初めて行く場合はとまどってしまう。
にしん御殿小樽貴賓館(旧青山別邸)は、初夏に咲く牡丹や芍薬の名所としても有名。ついでに、お金に糸目をつけずに集めた、あんまり趣味がいいとはいえない美術品がてんこもりで、お腹いっぱいになれる。見せ方って大事。キンキラキン過ぎると、せっかくの美術品もなんだか安っぽく見えてしまう。
小樽貴賓館からも車でそう遠くない、小樽市鰊御殿を、御殿と呼ぶのは誇大広告になりませんかねぇ。これ、ただの番屋でしょ。
とはいえ、当時は積丹半島では有数の親方(網元とはまた違うのか???)として知られた人の番屋だそうで、往時の番屋の暮らしがしのべる場所。網を引く労働者の居住環境が、劣悪過ぎてドン引きした。しかも雇用主家族とは同居スタイルで、現在とはあらゆる意味で常識が違った貴重な歴史を伝えるものであることは、間違いなし。
小樽海宝樓
観光客でいっぱいの、小樽堺町通り商店街から近いようでちょっと歩く、小高い丘の上にあるのが、海運で財をなした旧板谷邸のお屋敷小樽海宝樓。現在は、レストランやプチホテルを併設している。
旧館に隣接した、真新しい建物がホテルとしてオープンしたのは2017年の10月。口コミサイトにはまだ一件の書き込みもない時に、出来たばかりのホテルに泊まってきた。
いちばん狭い部屋でも45平米はある部屋は、リビングにベッドルーム、そして室内風呂までついた、ホテルというよりサービスアパートメントのような造り。
スタイリッシュでどこもかしこも出来立てだからピカピカ。アメニティも、ちょっと高級な感じでステキなんだけど、なにしろ人の気配がしないホテルだった。ルームサービスもなければ自動販売機もなく、備え付けの冷蔵庫には水など飲み物のストックもなく、夜中に喉が渇いたらどうしようかと、わりと途方に暮れた。外は大雪で、周囲も住宅街。
小高い丘にあるだけあって、街中の夜景が楽しめるのは確かなんだけど、大浴場は客室ほどではないけどホテルと隣接するマンションのベランダに面していて、気が気でないこと夥しかった。どうしてこんな建て方をするんだろう???と、邪推が次から次へと沸いてきましたよ。
ウェルカムスイーツは、花畑牧場のお菓子。商売っ気にはえらく乏しげだったので、税金対策パラダイスペーパー案件かと思いながら、寛いで過ごした。置き畳、快適―。
タクシーの運転手さんは、「お屋敷っていうか、まぁ古い家だな」とか言ってたけれど、それなりに趣のある本館で朝食を食べた。料理長のお名前は“佐藤淳”。もしかすると、星野リゾートトマム店と兼務なのかも。
海宝樓のある東雲町には、他にも古いお屋敷っぽい由緒ありげな何かがあったので、東雲町そのものが昔はお屋敷町だったのかも。現在はマンションが目立つ、フツーの住宅街なんだけどさ。歴史的建造物の保存と都市開発と。両立させるのは、そう簡単にはいかないやね。
小樽には大人が満足できる場所が少ない
数え切れないほど小樽には来てるけど、再訪してる理由はただ「札幌から近い」から。
高速を使えば1時間ほど。ニセコもいいけれど、冬季となると高速も使えず中山峠を越えるのは、雪道の運転に不安があるものにとっては、ちと荷が重い。なんなら電車でも来れる小樽は、ちょっと遠出したい時にはぴったりなんだけど、お金使いたいような場所がないのがネック。
電車で来れるから、外国人観光客をのぞけばもっとも日本人観光客の多い、小樽堺町通り商店街は、若い人の姿が目立つ。勢い、一見でも入れそうなお店はリーズナブルなお店ばかり。せっかく札幌というそれなりの都市に近いのに、もったいないなぁという思いが募る。
北一ホール、一度入ってみたいと思っていたけれど、入り口で回れ右してしまった。レトロ喫茶の「光」は許容できるけど、北一ホールは過剰過ぎてダメだった。タイミングが合わなくて入りそびれたけど、「くぼ屋」はよさげな雰囲気だったので、次の機会に行ってみよう。周りは著名な北海道スイーツのお店ばかり。和カフェはかえって新鮮さ。
堺町通り商店街を先日初めて歩いた(いつもは車で通り過ぎるだけ)けど、景観に厳しくなる以前の由布院みたいで、ごちゃごちゃ。ついでにルタオ多すぎ。ってか、ルタオ以外のお店が少なすぎ。富良野みたいに、わざわざ食べに来たくなるようなお店が、もっと増えればいいのにと思った。
電車で来れられて歩いて回れる街だから、外国人観光客も今は来てくれるけど、彼らが二度三度来てくれるのかというと、ちょっと疑問。台湾も中国もきっとタイやシンガポールも、都市居住者はすでに自国で洗練されたお店、たくさん見てるでしょ。
そぞろ歩きする人が多く、そぞろ歩きを楽しむ人向けにカジュアルな食べ物を扱うお店が目立つけど、安きに流れるとレベルも低くなって、お金落としてもいいと思ってる層から離れていきそ。
ホテルノイシュロス小樽
小樽市鰊御殿は、祝津というエリアの小高い場所にあるけれど、その小樽市鰊御殿を眼下に見下ろす、ニセコ積丹小樽海岸国定公園内にあるのが、ホテルノイシュロス小樽。
日本海の絶壁に建つホテル、眺め抜群。
以前もホテルだった建物を、2000年代の始めに改装、オープンしたとか。内装はやや重厚なヨーロピアン風。てっぺんのリング状の部分は、昔回転レストラン、今はスイートルームなんだってさ。
平成もそろそろおしまいになろうとする現在、この手のクラシカルかつヨーロピアンな内装のホテルは、もうわざわざ作ることはないんじゃないかと思われる。そういう意味で貴重。あと何年か踏ん張ったら、道内に残る希少なクラシカルホテルとして名を残せそうとか思うんだけど、どうなんすかね。
全部屋露天風呂付き。
この露天風呂が、たーいへん気持ちいい。居室がゆったりとしてるので、ほんとは長期滞在向きなんだけど、車がないと移動できないのが厳しいところ。
レストランは、今時めずらしくフレンチオンリー。バイキングにはしたくないという、ポリシーがあるとか。お持ち帰りもできる、バゲットがめちゃめちゃ美味しかった。ついでに、ちょっと珍しいジンジャーエールも美味しかった。
こういうありがちなもので予想しないものが出てくると、好印象。お箸でも食べられるフレンチも、十分に美味しかった。
雪景色もいいけれど、季節を変えて、海の青と空の青が楽しめる、夏場にもまた来たいと思った。
『喜びも悲しみも幾年月』という、古ーい映画のラストシーンにも登場した灯台だとか。絵になる灯台やね。
おまけ
新年なので、ウィーンのニューイヤーコンサートをテレビで放送していた。クラシックの調べにのせて、ワルツを踊るイベント。優雅。いかにもウィーンらしい優雅なイベントで、ウィーンの都市といえばモーツァルトでワルツでクラシックでしょという、都市のDNAを伝えてくる。
ウィーンの経済において、観光客依存度がどれほどのものか知らないけれど、ウィーンに来る観光客は、モーツァルトでザッハトルテでクラシカルな雰囲気を楽しみにくることは多分間違いない。お目当てのものがなかったり、期待したほどでもなかったらガッカリする。
都市のDNAを伝える象徴的なアイテムに自覚的だから、今でも新年にワルツ踊ってブラッシュアップしてる。近頃は極右政党も台頭してなんだかキナ臭いウィーンだけど、確固たる文化を確立している都市は、排他的傾向を自覚的に持つものなのかも。
確固たる文化が崩れ、ありふれたその辺の都市と大した違いもなくなれば、ウィーンがウィーンである意味も薄れてしまう。
都市のDNAを伝える象徴的なアイテムが明快だと、文化も守りやすくていいやね。と、考えたことを存分に綴れるのが、ブログのよいところ。
お休みなさーい。